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近年頭蓋底腫瘍に対する手術到達法として従来の顕微鏡下頭蓋底到達法に加え、経鼻内視鏡下頭蓋底到達法が行われる機会も増えている。しかし、両者は全く異なった手術到達法ではなく、その基本原理は同様である。今回は頭蓋底腫瘍摘出の基本原則を解説しながら、開頭頭蓋底手術および内視鏡下頭蓋底手術法のピットフォールとチップス、そして最近の動向について解説する。
頭蓋底腫瘍は図1Aに示す部位にまず発生する。腫瘍が成長するとともに脳神経、血管、脳組織を圧迫し症候性となった後に手術が必要となる(図1B)。この際、腫瘍が大きいほど通常の到達法でも腫瘍の辺縁に到達することは可能となるが、腫瘍が成長した方向に腫瘍を牽引するような到達法を選択すべきではない(図1C、1D)。この牽引操作中は常に圧迫された脳神経、血管、脳組織に緊張が加わるため、神経症状悪化の危険がある。また、剥離面がより見つけづらい状況になっている。したがって、画像をよく検討した後、腫瘍の発生部位を同定し、腫瘍の発生部位にはじめに到達できる方法を考えることが基本となる(図1E)。それによって腫瘍の発生部を内減圧すると止血が効果的に完成することに加え、腫瘍をもともとの発生部位の方向に引き戻すことができる(図1F)。こうすることで腫瘍を牽引する操作は常に脳神経、血管、脳組織の緊張を低下させる手術操作となるため、これら重要構造物に愛護的となる。また、緊張がとれるとはじめは確認することができなかった剥離面が確認できるようになる(図1G)。その後も腫瘍をすべて摘出し終えるまで、対側から腫瘍を観察し、中心部に腫瘍を戻す操作を繰り返すと腫瘍が安全に摘出されることとなる(図1H、1I)。開頭頭蓋底到達法、経鼻内視鏡到達法のどちらでも、この原則を守って手術を行うことが非常に重要である。今回はこの基本を守ったいくつかの頭蓋底到達法を紹介する。
合併経錐体到達法は脳幹前面、錐体斜台部に到達する非常に有用な到達法である。特に大型錐体斜台部髄膜腫の場合、主な腫瘍付着部は錐体斜台接合部上部でドレロー管よりも頭側で三叉神経よりも内側であり、一部は海綿静脈洞後方部分に浸潤している場合が多い。そのため、付着部に側方から到達できる合併経錐体到達法は非常に有用性が高い。しかし手技が煩雑で長時間となるため、この術式を行う術者は限られる。我々はこの手術を簡略化した最小合併経錐体到達法1, 2)を行っている。この到達法のコツとピットフォールを紹介する。
患者は患側を上にしたsemi-prone park bench positionをとり、患側側頭部が床と水平になるように頭部を固定している。全身麻酔導入時にスパイナルドレナージを留置して脳圧を十分低下させることができる準備をしておくことが重要である。
耳介前方から耳介を取り囲み、後頚部へと至る逆J字の皮膚切開が基本である。皮膚を翻転後、胸鎖乳突筋を茎とする側頭筋膜骨膜弁を形成しておく。この筋膜骨膜弁は硬膜閉鎖時に髄液漏を予防する目的で錐体骨上面を覆うために用いる。
側頭筋は前方に牽引、後頭下筋群は下方に牽引し、側頭、後頭、後頭下骨を露出する。
開頭は側頭開頭と乳様突起外板切除の組み合わせと考えると理解しやすい。S状静脈洞の発達した症例では乳様突起骨表面からS状静脈洞までの距離が非常に浅くなるため、この操作により静脈洞損傷が起こらぬよう十分注意が必要である。術前CT画像の評価でこの距離が非常に短い場合には、側頭開頭後S状静脈洞をダイヤモンドドリルで露出した後に残りの乳様突起外板を切り取る手技で十分であると考える。
通常、側頭開頭および乳様突起外板切除後にS状静脈洞の露出を行う。S状静脈洞壁はmastoid emissary veinの周囲のみ乳様骨と強く癒着しているため、この部についてはダイヤモンドドリルで丁寧に剥離を進める。その他の部位は横静脈洞側からS状静脈洞側に順次剥離操作を進めると、比較的容易にS状静脈洞壁を乳様突起骨内板から剥離することができる。このコツをマスターすると、短時間でマクロ下にS状静脈洞全長が露出可能になる。
側頭開頭とS状静脈洞露出が終了すると錐体骨削除に移るが、この時いきなり骨削除をはじめないことが手術のコツである。
まず中頭蓋底の硬膜を顕微鏡下に剥離して、硬膜上の中硬膜動脈を同定し、これを中枢側にたどると容易に極孔を確認できる。続いて同部で中硬膜動脈を凝固切断する。次に、さらに硬膜剥離を内側に進める。中頭蓋底硬膜の剥離は卵円孔までは容易であるが、これより正中側では中頭蓋窩硬膜の骨膜硬膜が神経、動脈に沿って頭蓋底の孔内に進展しているため、鈍的剥離は困難になる。これらの孔縁で骨膜硬膜のみをメスあるいははさみで鋭的に切開し、骨膜硬膜と髄膜硬膜の間の硬膜間腔に入り、神経を露出させながら髄膜硬膜を剥離翻転する。これにより三叉神経第三枝あるいは大浅錐体神経の露出が容易になる。
・硬膜剥離特に大浅錐体神経周囲ではこの神経に無理な牽引力が加わらないよう特に鋭的な剥離を心がける。大浅錐体神経は顔面神経管裂孔をでた後、中頭蓋窩の骨膜硬膜と髄膜硬膜の2葉の硬膜間を走行しているため、鋭的剥離で硬膜間に進入することで神経の温存が可能である。
・硬膜剥離を十分行うほど錐体骨先端の露出が十分できるため骨切除は容易になる。経錐体到達法のコツを一言で表すと、いかに硬膜外に錐体骨を広く露出するかである。